ラストキッス(Album Version)レビュー

※現在武蔵野タンポポ団にある全曲レビューから若干加筆したものです。

ラストキッス」アルバム・ヴァージョン …「ハーモニー+弦楽で紡ぐ恋の終わり」…


タンポポのファーストアルバムの最後を飾るのは重厚なオーケストレイション。
それまでの曲も「明るく軽く」ではない歌詞であったり曲調であったりしたけれども、更に輪をかけて重々しい、弦楽。
アルバムの最初に入っている「ラストキッス」のアルバムヴァーションという簡単な名前で括られているものの、それとは全く別の何かを思わせるような空気の重さと密閉された空間を感じる。
 
弦楽で奏でられるイントロから静かに、歌が始まる。
 
最初の1回目にアルバムを聞いた時、この曲だけ存在が違った。
オーケストレイションでのはじまりという意外さもあるけれど、ほとんどアカペラで、意図的にステレオの LR チャンネルをいじってハモリとメインを対等に聞かせて、この3人でないと完成しない世界、が見えた気さえした。
 
この原曲(シングル版)を初めて聞いた時、ハモリパートが綺麗にメインを引き立ててるのが印象的だった。
綺麗に、形式的に、ハモリが影にいてこそメインパートが光り輝くような、そんなイメージ。
対して、このアルバム版は全く逆だった。「J-POPでの普通」はメインヴォーカルが一番目立つようにハモリを抑えたり、オケを工夫したりするだろうが、この曲は違った。
たぶん音の配置の仕方だろうと思うけれど、後ろ(もしくは前)を取り囲むように聞こえる3人の声。ハモリとメインが同時に同じ音量で聞こえる。そして後ろに静かに流れる生粋のオケ。
その3人の声はぶつかりあって、競り合って、ラストキッスの曲にある淋しさの裏側の感情が滲み出していた。
 
『失恋』と『女の立場にしてみたら不条理な彼の行動』と『彼を忘れるための無駄な努力』の歌詞。
艶っぽくて細やかな声の運びや、方々から聞こえてくる3人の吐息や、しっとりながれる弦楽のせつなさ。
弦楽の緊迫した重さと相乗効果で、ハモリとメインの両側から痛々しく響く声とメロディー。
もしかしなくても、当時の3人はつんくの意図をすべて理解していた訳ではないだろう。
けれど、それ故に「自分では理解できない恋の終わり」に(=理解したくてもできない楽曲に)なんとかあがらおうとしている感情が混じっている気がする。だからこそ、この楽曲に現実感が混ざっているのかもしれない。
 
改めて何度も聞き直して、「ああ、モーニング娘。が忘れていった部分はこういうところなのかな」とちょっとだけ思った。
それは、「女」という部分。
このアルバムには、この曲には本当に愛おしい「女」がいる。好きな人を愛してやまない、少女でなく「女」。
私はこの、自分の中にはまだ見つけられないそんな部分に惹かれているのかもしれない。
 
そんなわけで、アルバム「TANPOPO1」のなかで、もしかするとタンポポの中で、いちばん心に残っている、大好きな大好きな曲です。


(2002/08/22)